名古屋地方裁判所 昭和51年(行ウ)34号 判決 1990年11月30日
原告
加藤萬基こと
李萬基
右訴訟代理人弁護士
竹下重人
右訴訟復代理人弁護士
伊神喜弘
被告
千種税務署長横山明
右指定代理人
天野登喜治
外三名
主文
一 被告が昭和四八年三月七日付で原告に対してした、原告の同四四年分の所得税についての更正のうち総所得金額金一三八六万三五五〇円を超える部分、原告の同四五年分の所得税についての更正のうち総所得金額金四〇〇五万〇六四八円を超える部分及び原告の同四六年分の所得税についての更正のうち総所得金額金三〇七一万八八〇四円を超える部分をいずれも取り消す。
二 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用はこれを一〇分し、その一を被告、その余を原告の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告が原告の昭和四四年分ないし同四六年分の各所得税について同四八年三月七日付でした各更正処分(ただし、昭和四四年分については異議決定及び審査裁決により、同四五年分及び同四六年分については審査裁決により、それぞれ一部取消しがされた後のもの)をいずれも取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 課税処分の経緯
原告の昭和四四年ないし同四六年(以下「本件係争年」という。)における所得税につき、原告のした申告、被告のした更正(以下「本件処分」という。)及び過少申告加算税賦課決定(以下、本件処分と合わせて「本件処分等」という。)、異議決定並びに国税不服審判所長のした審査裁定の経緯は、資料1別表(一)ないし(三)記載のとおりである。
2 本件処分の違法
しかしながら、本件処分(昭和四四年分については異議決定及び審査裁決により、同四五年分及び同四六年分については審査裁決により、それぞれ一部取消し後のもの。以下同じ。)は、原告の所得を過大に認定したものであって、違法である。
3 結論
よって、原告は、本件処分の取消しを求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1項の事実は認める。
2 同2項の事実は否認する。
3 同3項は争う。
三 被告の主張
1 当事者
原告は、本件係争年当時、その肩書地において、丸誉産業の屋号で金融業(以下「本件営業」という。)を営んでいた者である。
2 推計の必要性
被告は、原告から提出された本件係争年分の所得税確定申告書(所得税法一四三条所定の青色申告の承認を受けていない、いわゆる白色申告書)記載の所得金額について、昭和四七年九月ころ、被告係官を原告方に赴かせ、実地に調査を行わせた。
右係官は、原告に対し、本件営業に関する帳簿書類等の提示を求めたが、原告から小口貸付台帳(以下「本件台帳」という。)等一部の書類の提示しか得られなかったので、原告の所得金額を実額で把握することができなかった。
そこで、被告は、やむを得ず、原告の取引先等に対して原告との取引状況等の調査をし、その調査結果に基づき、推計(一部は実額)により本件係争年における原告の所得金額を算定し、本件処分等を行ったものである。
3 本件係争年における原告の所得金額の計算根拠と推計の合理性
(一) 昭和四四年分の事業所得金額 金二七二三万七二七三円
右は、次の(1)記載の総収入金額から(2)記載の必要経費を控除したものである。
(1) 総収入金額 金三〇六九万四三八〇円
① 証書貸付等に係る利息収入 金一五四二万一八四五円
被告の調査の結果、原告が本件営業に用いていた銀行預金口座(後記②イⅠないしⅤ記載のとおり、本人名義、家族名義、他人名義及び架空名義の各口座を含む。以下後記(二)③ⅠないしⅦ及び(三)③ⅠないしⅨ記載の銀行預金口座を合わせて「本件口座」という。)への入金状況等に基づき、被告が貸付先を把握することができた貸付(以下「証書貸付等」という。)に係る利息収入を実額で算出した金額であり、次のイ及びロの合計金額からハの金額を控除したものである。
イ 昭和四三年分前受利息 金九九万三六六四円
昭和四三年中に受け取った利息のうち、同四四年の貸付期間に対応する部分であり、その明細は、資料2別紙一(別紙⑧)記載のとおりである。
ロ 昭和四四年分受取利息 金一五二一万一三五六円
昭和四四年分として受け取った利息であり、その明細は、資料2別紙一(別紙⑨)記載のとおりである。。
なお、原告は、中谷康教に対する貸付(番号1及び2)につき、準備手続においては取引関係のあったことを認めた上で利率についてのみ争っていたにもかかわらず、昭和六二年一二月二二日付準備書面で取引自体を争うに至った。これは自白の撤回に該当するが、原告は自白の撤回が許されるための要件を何ら主張・立証せず、被告は、これに異議がある。また、近藤信雄に対する貸付(番号100)についても、準備手続においては争っていなかったところ、右準備書面で自白を撤回したが、原告は自白の撤回が許されるための要件を何ら主張・立証せず、被告は、これに異議がある。
ハ 昭和四四年分前受利息 金七八万三一七五円
ロのうち昭和四五年の貸付期間に対応する部分であるから、同四五年の総収入金額に算入すべきものであり、その明細は、資料2別紙一(別紙⑤)記載のとおりである。
② 貸付先不明の貸付に係る利息金一五二七万二五三五円
貸付先不明の貸付に係る利息収入については実額で把握することができないが、原告は、貸付金を回収する都度、右回収金を本件口座に入金しており、本件口座は貸付台帳と同一の機能を果たしていると認められるので、本件口座への入金総額から、
a ①の証書貸付等に係る貸付元金及び利息の入金
b 金融機関からの借入金及び預金利息の入金
c 貸付金の回収かどうか明らかでない入金
d その他貸付金の回収と認められない入金
(以下右aないしdの合計を「除外分」という。)を控除したものが、貸付先不明の貸付に係る貸付元金及び利息の回収金額であり、これに①における「総入金額」に対する「受取利息」の割合(以下「受取利息割合」という。)15.56パーセントを乗じたものが、貸付先不明の貸付に係る利息収入金額というべきである。
右受取利息割合は、①における貸付のうち、他の取引と比べて取引口数が例外的に多い特殊なもので標本として適当でないと考えられる平田忠及び松村吉雄に対する貸付(以下「平田関係の貸付」という。)を除いた貸付を基礎としており、その本件係争年別の明細は、資料4記載のとおりであるが、本件営業は一般の物品販売と異なり、各年毎の割合を算出することが必ずしも合理的とは限らない(例えば、証書貸付の場合、貸付を行った年の入金は利息のみであり、元金を回収した年の入金は元利金となるので、各年毎の受取利息割合の変動が大きい。)ので、長期又は短期の貸付元金及び利息が大体回収されると考えられる三年間の受取利息割合を平均した15.56パーセントを、本件係争年を通じて用いることが合理的である。
イ 本件口座への入金総額 金一億七三九七万六一六四円
Ⅰ 中央相互銀行今池支店本人名義金四三七〇万三一八八円
その明細は、資料3別紙①記載のとおり。
Ⅱ 同永野裕男名義 金二一二八万五四九一円
その明細は、資料3別紙②記載のとおり。
Ⅲ 同永野裕豊名義 金七八一万四五〇六円
その明細は、資料3別紙③記載のとおり。
Ⅳ 中央信託銀行今池支店本人名義金八四〇七万八三二八円
その明細は、資料3別紙④記載のとおり。
Ⅴ 同加藤並枝名義 金一七〇九万四六五一円
その明細は、資料3別紙⑤記載のとおり。
ロ 除外分 金七五八二万三六二〇円
Ⅰ 前記aにあたるもの 金二六一八万三三一七円
イⅠの口座における合計金一一五一万九五七二円と同Ⅳの口座における合計金一四六六万三七四五円を加えた金額。
Ⅱ 前記bに当たるもの 金七万〇四六〇円
イⅠの口座における合計金二万六七二〇円、同Ⅱの口座における合計金三四六六円、同Ⅲの口座における合計金一万五五〇六円、同Ⅳの口座における合計金二万二六一七円及び同Ⅴの口座における合計金二一五一円を合計した金額。
Ⅲ 前記cに当たるもの 金三九二三万二三八五円
イⅠの口座における合計金三六〇円、同Ⅱの口座における合計金二〇一八万二〇二五円、同Ⅲの口座における合計金四五〇万円、同Ⅳの口座における合計金五五万円及び同Ⅴの口座における合計金一四〇〇万円を合計した金額。
Ⅳ 前記dに当たるもの 金一〇三三万七四五八円
イⅠの口座における合計金三三五万二九〇〇円、同Ⅱの口座における合計金五〇万円、同Ⅳの口座における金四九八万四五五八円及び同Ⅴの口座における合計金一五〇万円を合計した金額。
(2) 必要経費 金三四五万七一〇七円
① 原告申告に係る必要経費 金二三六万二〇四八円
② ①に加算すべき経費 金一〇九万五〇五九円
イ 減価償却費の計上漏れ 金一三万八八四七円
ロ 借入利息の計上漏れ 金九五万六二一二円
Ⅰ 中央相互銀行今池支店 金四七万八九五二円
Ⅱ 河和農業協同組合 金四七万七二六〇円
(二) 昭和四五年分の事業所得金額 金五四一五万二五三二円
右は、次の(1)記載の総収入金額から(2)記載の必要経費を控除したものである。
(1) 総収入金額 金五七八五万二九九六円
① 本件台帳記載の利息収入 金一九四万三五二〇円
原告のした貸付のうち、本件台帳に記載された貸付の貸付先、貸付金額、約定利率及び利息収入の明細は、資料2別紙二番号1ないし20記載のとおりである。
② 証書貸付等に係る利息収入 金三八二二万三二七五円
証書貸付等に係る利息収入を実額で算出した金額であり、次のイないしハの合計金額からニの金額を控除したものである。
イ 昭和四四年分前受利息 金七八万三一七五円
昭和四四年に受け取った利息のうち、同四五年の貸付期間に対応する部分であり、その明細は、資料2別紙一(別紙⑤)記載のとおりである。
ロ 昭和四五年分受取利息 金三一三一万九二三二円
昭和四五年分として受け取った利息であり、その明細は、資料2別紙一(別紙⑥)記載のとおりである。
なお、原告は、中谷康教に対する貸付(番号1ないし3)につき、準備手続においては取引関係のあったことを認めた上で利率についてのみ争っていたにもかかわらず、昭和六二年一二月二二日付準備書面で取引自体を争うに至った。これは自白の撤回に該当するが、原告は自白の撤回が許されるための要件につき何ら主張・立証せず、被告は、これに異議がある。
ハ 昭和四五年分未収利息 金六一九万〇六四二円
その明細は、資料2別紙一(別紙⑦)記載のとおりである。
ニ 昭和四五年分前受利息 金六万九七七四円
ロのうち昭和四六年の貸付期間に対応する部分であるから、同四六年の総収入金額に算入すべきものであり、その明細は、資料2別紙一(別紙①)記載のとおりである。
③ 貸付先不明の貸付に係る利息金一七六八万六二〇一円
次のイの本件口座への入金総額からロの除外分を控除し、これに受取利息割合15.56パーセントを乗じたものである。
イ 本件口座への入金総額 金三億一九〇〇万八九八三円
Ⅰ 中央相互銀行今池支店本人名義金八二七八万七四六七円
その明細は、資料3別紙⑥記載のとおり。
Ⅱ 同永野裕男名義 金三二一一万三六七〇円
その明細は、資料3別紙⑦記載のとおり。
Ⅲ 同小野久男名義 金三〇万二〇〇〇円
その明細は、資料3別紙⑧記載のとおり。
Ⅳ 中央信託銀行今池支店本人名義金一億六六九〇万七三五四円
その明細は、資料3別紙⑨記載のとおり。
Ⅴ 同加藤並枝名義 金四七七八円
その明細は、資料3別紙⑩記載のとおり。
Ⅵ 東海銀行中村公園前支店平塚二朗名義 金四三一万八八六〇円
その明細は、資料3別紙⑪記載のとおり。
Ⅶ 岐阜信用金庫中村公園支店本人名義 金三二五七万四八五四円
その明細は、資料3別紙⑫記載のとおり。
ロ 除外分 金二億〇五三四万四四五〇円
Ⅰ 前記aに当たるもの 金一億五五二六万九九三五円
イⅠの口座における合計金五二五九万三八三三円、同Ⅱの口座における合計金一九五八万〇七五〇円、同Ⅳの口座における合計金七九六七万八三五二円及び同Ⅵの口座における合計金三四一万七〇〇〇円を合計した金額。
Ⅱ 前記bに当たるもの 金一二二一万七六六八円
イⅠの口座における合計金一三万四六九二円、同Ⅱの口座における合計金一万七〇九〇円、同Ⅳの口座における合計金四万七三一六円、同Ⅴの口座における合計金四七七八円、同Ⅵの口座における合計金五五五円及び同Ⅶの口座における合計金一二〇一万三二三七円を合計した金額。
Ⅲ 前記cに当たるもの 金一八七〇万五九七〇円
イⅠの口座における合計金八五万〇二四八円、同Ⅱの口座における合計金一〇〇万円、同Ⅲの口座における合計金二〇〇〇円、同Ⅳの口座における合計金一三〇万円、同Ⅵの口座における合計金四万二一〇五円及び同Ⅶの口座における合計金一五五一万一六一七円を合計した金額。
Ⅳ 前記dに当たるもの 金一九一五万〇八七七円
イⅠの口座における合計金一一六一万五八五〇円、同Ⅱの口座における合計金四一三万五〇〇〇円及び同Ⅳの口座における合計金三四〇万〇〇二七円を合計した金額。
(2) 必要経費 金三七〇万〇四六四円
① 原告申告に係る必要経費 金三二二万六六六五円
② ①から減算すべき金額 金三三万九二四七円
イ 減価償却費の過大計上 金一万九二四七円
ロ 専従者給与の不当計上 金三二万円
③ ①に加算すべき金額 金八一万三〇四六円
イ 給料、賃金の計上漏れ、金二四万六〇〇〇円
ロ 借入利息の計上漏れ 金五六万七〇四六円
(三) 昭和四六年分の事業所得金額 金四四三九万六八四二円及び不動産所得金額 金一二万四五九七円
事業所得は次の(1)記載の総収入金額から(2)記載の必要経費を控除したものであり、不動産所得は(3)記載のとおりである。
(1) 総収入金額 金四八二三万四四八九円
① 本件台帳記載の利息収入 金二七五万八二一〇円
原告のした貸付のうち、本件台帳に記載された貸付の貸付先、貸付金額、約定利率及び利息収入の明細は、資料2別紙三番号1ないし30記載のとおりである。
② 証書貸付等に係る利息収入 金二九二八万六七六五円
証書貸付等に係る利息収入を実額で算出した金額であり、次のイないしハの合計金額からニの金額を控除したものである。
イ 昭和四五年分前受利息 金六万九七七四円
昭和四五年に受け取った利息のうち、同四六年の貸付期間に対応する部分であり、その明細は、資料2別紙一(別紙①)記載のとおりである。
ロ 昭和四六年分受取利息 金一七四二万八四一三円
昭和四六年分として受け取った利息であり、その明細は、資料2別紙一(別紙②)記載のとおりである。
なお、原告は、中谷康教に対する貸付(番号44及び45)につき、準備手続においては取引関係のあったことを認めた上で利率についてのみ争っていたにもかかわらず、昭和六二年一二月二二日付準備書面で取引自体を争うに至った。これは自白の撤回に該当するが、原告は自白の撤回が許されるための要件につき何ら主張・立証せず、被告は、これに異議がある。また、原告は、永田喜章に対する貸付(番号61)についても、準備手続においては争っていなかったところ、昭和六二年一二月二二日付及び同六三年六月一七日付各準備書面にて自白を撤回したが、被告は、これに異議がある。
ハ 昭和四六年分未収利息 金一四五七万一四二三円
その明細は、資料2別紙一(別紙③)記載のとおりである。
ニ 昭和四六年分前受利息 金二七八万二八四五円
ロのうち昭和四七年の貸付期間に対応する部分であるから、同四七年の総収入金額に算入すべきものであり、その明細は、資料2別紙一(別紙④)記載のとおりである。
③ 貸付先不明の貸付に係る利息金一六一八万九五一四円
次のイの本件口座への入金総額からロの除外分を控除し、これに受取利息割合15.56パーセントを乗じたものである。
イ 本件口座への入金総額 金二億八七二一万二七五二円
Ⅰ 中央相互銀行今池支店本人名義金二一六三万三一二四円
その明細は、資料3別紙⑬記載のとおり。
Ⅱ 同永野裕男名義 金四八五二万三八〇三円
その明細は、資料3別紙⑭記載のとおり。
Ⅲ 同小野久男名義 金八一円
その明細は、資料3別紙⑮記載のとおり。
Ⅳ 同森信一名義 金一億〇七六〇万二八三四円
その明細は、資料3別紙⑯記載のとおり。
Ⅴ 中央信託銀行今池支店本人名義金四二六四万三八七三円
その明細は、資料3別紙⑰記載のとおり。
Ⅵ 同加藤並枝名義 金四〇四万三五八〇円
その明細は、資料3別紙⑱記載のとおり。
Ⅶ 東海銀行中村公園前支店平塚二朗名義、金八五万二〇九三円
その明細は、資料3別紙⑲記載のとおり。
Ⅷ 岐阜信用金庫中村公園支店本人名義 金五一五八万三九七四円
その明細は、資料3別紙⑳記載のとおり。
Ⅸ 東春信用金庫錦通支店太田一郎名義 金一〇三二万九三九〇円
その明細は、資料3別紙記載のとおり。
ロ 除外分 金一億八三一六万七〇三〇円
Ⅰ 前記aに当たるもの 金一億〇五二九万八二五五円
イⅠの口座における合計金一二五三万四一五五円、同Ⅱの口座における合計金二〇五八万一三〇〇円、同Ⅳの口座における合計金五七九五万円、同Ⅴの口座における合計金一一七一万五八〇〇円及び同Ⅸの口座における合計金二五一万七〇〇〇円を合計した金額。
Ⅱ 前記bに当たるもの 金二八三五万四四二九円
イⅠの口座における合計金一四万五九七〇円、同Ⅱの口座における合計金八万七一〇三円、同Ⅲの口座における合計金八一円、同Ⅳの口座における合計金二八二一円、同Ⅴの口座における合計金三万四一〇七円、同Ⅵの口座における合計金九五八〇円、同Ⅶの口座における合計金七九三円、同Ⅷの口座における合計金二八〇七万一六七四円及び同Ⅸの口座における合計金二三〇〇円を合計した金額。
Ⅲ 前記cに当たるもの 金二一九八万〇三〇三円
イⅠの口座における合計金一九万円、同Ⅱの口座における合計金四四〇万円、同Ⅳの口座における合計金四六一万一〇〇三円、同Ⅴの口座における合計金二八七万円、同Ⅶの口座における合計金八万四〇〇〇円、同Ⅷの口座における合計金七七一万二三〇〇円及び同Ⅸの口座における合計金二一一万三〇〇〇円を合計した金額。
Ⅳ 前記dに当たるもの 金二七五三万四〇四三円
イⅠの口座における合計金九八万二三六九円、同Ⅱの口座における合計金六五九万二三〇〇円、同Ⅴの口座における合計金一二万五三七四円、同Ⅵの口座における合計金四〇三万四〇〇〇円及び同Ⅷの口座における合計金一五八〇万円を合計した金額。
(2) 必要経費 金三八三万七六四七円
① 原告申告に係る必要経費 金一一三万四三七八円
② ①から減算すべき金額 金四〇〇〇円
イ 地代、家賃の過大計上 金四〇〇〇円
③ ①に加算すべき金額 金二七〇万七二六九円
イ 減価償却費の計上漏れ 金四万二〇〇七円
ロ 給料、賃金の計上漏れ 金九一万円
ハ 借入利息の計上漏れ 金一七五万五二六二円
Ⅰ 中央相互銀行今池支店 金八九万五八二三円
Ⅱ 河和農業協同組合 金八五万九四三九円
(3) 不動産所得 金一二万四五九七円
① 原告は、昭和四六年一一月、名古屋市中区栄五丁目一一三番地ないし一一五番地所在の土地を駐車場として貸し付け、同月に金一〇万六六〇〇円、同年一二月に金九万七〇〇〇円、合計金二〇万三六〇〇円の収入を得た。
② 右収入を得るため、原告は、固定資産税金四万三七七八円、契約書作成費用金七六〇〇円、看板料金一万四五〇〇円及び造成工事の償却金一万三一二五円の合計金七万九〇〇三円を支出した。
4 本件処分の適法性について
前項の各金額をまとめると、本件係争年における原告の総所得金額は、資料5記載のとおりとなるところ、右は、本件処分に係る総所得金額をいずれも上回っているから、本件処分は適法である。
四 被告の主張に対する認否
1 被告の主張1項の事実は認める。
2 同2項の事実は認める。
3(一)(1)①イ 被告の主張3項(一)(1)①イの事実は否認する。
資料2別紙一(別紙⑧)の貸付の利率は、いずれも月三分である(なお、右認否は、原告が平田忠と取引する際の貸付利率はいずれも月三分であったというものであり、被告主張どおり別紙⑧の1ないし12の取引があったことを認める趣旨ではない。以下の認否において、貸付を番号で特定して認否しているのも同趣旨である。)。
ロ 同ロの事実は否認する。
資料2別紙一(別紙⑨)の貸付のうち、番号4、5、7、8、20ないし99の利率はいずれも月三分であり、同101ないし104の利率はいずれも日歩八銭((株)団地新聞奥様ジャーナルと原告の間に直接の取引はなく、原告は阿部某を相手方として取引したにすぎない。原告と阿部某との間の取引における利率は日歩八銭であった。以下、被告主張の(株)団地新聞奥様ジャーナルとの取引につき同じ。)、同107の利率は日歩一一銭、同110ないし113の利率はいずれも日歩一〇銭である。また、同9ないし19のパール電機設備(株)に対する貸付は存在しない。その余の貸付も争う。
なお、中谷康教に対する貸付(番号1及び2)について、原告が準備手続においてした認否は、利率に対するもののみであるから、取引自体を争ったとしても自白の撤回に該当するものではない。また、近藤信雄に対する貸付(同100)については、原告代理人の手違いにより認めていたに過ぎない。
ハ 同ハの事実は否認する。
資料2別紙一(別紙⑤)の貸付のうち、番号1ないし6の取引は存在しない。また、同7ないし13の貸付の利率はいずれも月三分であり、同14の利率は日歩一二銭である。
②イ 同②イの事実は否認する。
Ⅰの口座のうち金一一五二万九三〇〇円、Ⅱの口座のうち金五六〇万円、Ⅳの口座のうち金二一三二万一三四〇円及びⅤの口座のうち金一五〇万円は、いずれも帳簿記載上、入金総額に算入すべきものでないことが明らかである。また、Ⅲの口座は、原告が使用していたものではない。
ロ 同ロの事実のうち、被告主張の金額が除外されるべきものであることは認めるが、この他にも控除すべき金額があることは前項記載のとおりである。
(2) 同(2)の事実のうち、被告主張の金額が必要経費として総収入金額から控除すべきものであることは認めるが、この他にも必要経費が存在することは、後記原告の反論3、4項記載のとおりである。
(二)(1)① 同(二)(1)①のうち、本件台帳記載の利息収入が金一八万〇二〇〇円の限度で存した事実は認めるが、これを超える金額は否認する。
右認否の明細は、資料6別紙一記載のとおりである。
②イ 同②イの事実は否認する。
その詳細は、前記((一)(1)①ハ記載)のとおりである。
ロ 同ロのうち、資料2別紙一(別紙⑥)番号24、26及び同230ないし245の各貸付の事実は認めるが、その余は否認する。
同11ないし23、39ないし218及び246ないし262の各貸付の利率はいずれも月三分、同35ないし38の貸付の利率は月2.5分ないし三分である。同219ないし229の貸付の直接の相手方は青山某で利率は日歩八銭であるが、手形が不渡りとなり、元本のみ回収し利息の収益はない。同269の貸付の利率は日歩一二銭である。また、同4ないし9の不二観光(株)に対する直接貸付及び同263ないし266の浜田通夫に対する直接取引は存在せず(前者は吉田漢二が介在したものであって、その利率は日歩七銭であり、後者は平田忠が持ち込んだ手形を割り引いたものであり、その利率も日歩八銭である。)、同27ないし34のパール電機設備(株)に対する貸付も存在しない。その余の貸付も争う。
なお、中谷康教に対する貸付(番号1ないし3)について、原告が準備手続においてした認否は、利率に対するもののみであるから、取引自体を争ったとしても自白の撤回に該当するものではない。
ハ 同ハの事実は否認する。
ニ 同ニの事実は否認する。
資料2別紙一(別紙①)番号1及び2の貸付の利率は月三分であり、同3の貸付の利率も月2.5分ないし三分である。
③イ 同③イの事実は否認する。
Ⅰの口座のうち金三〇〇四万八〇四八円、Ⅱの口座のうち金八一三万五〇〇〇円、Ⅲの口座のうち金一五万円、Ⅳの口座のうち金六五〇一万八二〇〇円及びⅥの口座のうち金二三六万五五〇〇円は、いずれも帳簿記載上入金総額に算入すべきものでないことが明らかである。また、Ⅴ及びⅥの口座は、いずれも原告が使用していたものではない。
ロ 同ロのうち、被告主張の金額が控除されるべきものであることは認めるが、この他にも控除すべき金額がある。
(2) 同(2)の事実のうち、被告主張の金額が必要経費として総収入金額から控除されるべきことは認めるが、その他にも必要経費が存在することは後記原告の反論3、4項記載のとおりである。
(三)(1)① 同(三)(1)①のうち、本件台帳記載の利息収入が金六〇万二五五〇円の限度で存したことは認めるが、これを超える金額は否認する。
右認否の明細は、資料6別紙二記載のとおりである。
②イ 同②イの事実は否認する。
その詳細は、前記((二)(1)②ニ記載)のとおりである。
ロ 同ロのうち、資料2別紙一(別紙②)番号48ないし61、83ないし99、101ないし121の各貸付の事実は認める。同1ないし7について、日本リビングセンター株式会社に対する各貸付の存否ははっきりしない(仮に貸付が行われたとしても利率は月2.5分である。)。
同8ないし10、62ないし80、100及び138ないし171の各貸付の利率はいずれも月三分、同11ないし43、46及び47の各貸付の利率はいずれも日歩七銭、同81の貸付の利率は日歩八銭、同82の貸付の利息は金一五〇〇円、同123ないし137の各貸付の利率は月2.5分ないし三分である。
また、同11ないし53の(株)杉山鉄工所との直接取引はない。ただし、同社に出入りしていたと称する中島直助が持ち込んだ手形及び小切手を割り引いたことはあるが、利率は日歩七銭であった。同46及び47の不二観光(株)との取引もなく、吉田漢二が持参した同社振出の手形を割り引いたものであり、利率は日歩七銭であった。同81の堀口安一との取引もなく、右吉田や小山弘が介入して、同人振出の手形を割り引いたもので利率は日歩八銭であった。同122のパール電機設備(株)との取引もない。
その余の貸付も争う。
なお、中谷康教に対する貸付(番号44及び45)について、原告が準備手続においてした認否は、利率に対するもののみであるから、取引自体を争ったとしても自白の撤回に該当するものではない。また、永田喜章に対する貸付(同61)につき、原告は、準備手続において認める旨の認否を行ったが、右は事実に反し、かつ、錯誤に基づいてしたものであるから、撤回する。
ハ 同ハのうち、資料2別紙一(別紙③)番号32ないし36の各貸付の事実は認め、同1及び2の各貸付の事実は知らない(仮に貸付が行われたとしても、その利率は月2.5分ないし三分である。)。その余は否認する。
ニ 同ニは否認する。
資料2別紙一(別紙④)番号1ないし4の(株)杉山鉄工所に対する取引はなく、前記のとおり中島が同社の手形及び小切手を持ち込み、これを割り引いたものである。同5ないし8及び11ないし20の各貸付の利率はいずれも月三分であり、同9及び10の各貸付の利率も月2.5分ないし三分である。
③イ 同③イの事実は否認する。
Ⅰの口座のうち金一一二七万三九八四円、Ⅱの口座のうち金一〇三四万七三〇〇円、Ⅳの口座のうち金四〇〇五万一八〇〇円、Ⅴの口座のうち金八七一万五〇〇〇円、Ⅶの口座のうち金一八万円及びⅨの口座のうち金一九五万九四四〇円は、いずれも帳簿記載上入金総額に算入すべきものでないことが明らかである。
また、Ⅶ及びⅨの各口座は、いずれも原告が使用していたものではない。
ロ 同ロの事実のうち、被告主張の金額が控除されるべきものであることは認めるが、この他にも控除すべき金額がある。
(2) 同(2)の事実のうち、被告主張の金額が必要経費として総収入金額から控除されるべきことは認めるが、その他にも必要経費が存在することは、後記原告の反論3、4項記載のとおりである。
(3) 同(3)①及び②の各事実はいずれも認める。
4 同4項は争う。
五 原告の反論
1 被告の推計方法の不合理性について
被告の推計は、以下の点で不合理である。
(一) 原告の資産は、営業開始時と比較してほとんど増加していないから、財産増減法によれば、原告の所得金額が大きな金額になるはずがないにもかかわらず、被告の推計によれば、原告は非常に大きな金額の利息収入を得ていたことになるが、これは、右推計に致命的な欠陥があることを示すものである。
(二) 被告による本件処分等、異議決定及び本訴における主張並びに国税不服審判所長の審査裁決の各段階における原告の所得金額は、めまぐるしく変遷しているが、同じ推計の方法を用いながら、認定された所得金額が、その都度異なるのは、推計の基礎となる事実が確実に把握されていないことの証左というべきである。
(三) 被告の推計方法は、原告の一定期間の営業実績を基に、回収金額全体の中で利息の占める割合、いわゆる受取利息割合を算出し、次いで、本件口座への総入金額から除外分を控除した金額に受取利息割合を乗ずる方法を採用しているところ、
(1) 本人比率法を採用して右のような推計をすることが本件事案における推計の方法として最も合理的であることの根拠が示されていないし、本人比率法を採用するにしても、推計の基礎となる事実が確実に把握されていない本件においては、他の推計方法も併用し、これらを比較することにより、できるだけ客観性を担保すべきところ、被告はこれを行っていない。
(2) 被告は、受取利息金額を回収金額で除して受取利息割合を算定しているが、右受取利息金額も回収金額も信用力の薄い文書に基づいて算出されたものであるから、受取利息割合も全く信用できないものとなっている。
実際、現実に入金が確認できる回収金額に右受取利息割合を乗じた結果の金額は、被告主張の利息収入金額より大きくなるという不都合を生じている。
(3) 利息は貸付元金に貸付利率と貸付期間を乗じて算出されるものであるから、本件においても、貸付元金に平均貸付利率と平均貸付期間を乗じて利息収入を推計すべきところ、被告は、本件口座への入金総額から除外分を控除した金額に受取利息割合を乗じているが、この方法が合理的であることの根拠を示していない。
(4) 受取利息割合を算出するについては、標本となった貸付が原告の貸付の全体像を反映するものであることを要するところ、被告は、単に実額を把握できた貸付を標本とするのみであるから、受取利息割合も原告の貸付の実体を反映するものとはなっていない。
例えば、被告が標本とした貸付には、返済の滞っていた貸付金が回収されたものが多く含まれているが、このような貸付は、資金の回転率が遅延する一方、利息ないし損害金の収入は累積することから、受取利息割合が必然的に上昇するものであり、標本としてふさわしくないというべきである。
現に、被告が従来主張していた受取利息割合15.57パーセント(その後、15.56パーセントに訂正)は、月九分の利率とすると貸付期間は1.73月、月五分の利率とすると貸付期間は5.2月となるが、原告の通常の貸付は、月三分の利率で平均貸付期間は一、二月(場合によって三月)であり、受取利息割合は、三パーセント(貸付期間一月)又は六パーセント(同二月)程度であって、被告の主張する受取利息割合は、実情に合致しない。
(5) 被告は、受取利息割合を算出するに当たり、平田関係の貸付を除外し、その理由として「取引口数が例外的に多い特殊なもの」であることを挙げるが、右は除外の理由として根拠薄弱である。
平田関係の貸付の利率は、日歩八銭二厘、月二分五厘以上であることはないから、平均貸付期間を二月としても、受取利息割合は五パーセントにすぎず、右貸付を除外したのは、受取利息割合を不当に高める意図に出たものといわざるを得ない。
(6) 本件口座へ入金された金額には割引手形又は小切手による入金が含まれているが、割引の利息は天引きの形式をとるので、実際に当該手形等が決済されてはじめて利息収入が現実化するというべきであり、したがって、当該手形等が不渡り、依頼返却等の理由によって決済されず、入金が取り消された場合には、当初の入金(その金額は、被告の主張に対する認否3項(一)(1)②イ、同項(二)(1)③イ及び同項(三)(1)③イにおいて、帳簿記載上、入金総額に算入すべきものでないと主張した金額である。)は推計の基礎となる入金総額から排除されねばならないが、被告は、これを含めた金額を入金総額として推計を行っている。
また、被告は、受取利息割合を算出する際に用いた数式の分母に算入すべき金額を多数抜いており、その結果、右割合が不当に高くなっている。
(7) 被告は、原告の利息収入についてのみ推計を行っているが、収入に応じた一般経費を要するはずであるから、受取利息割合から一般経費率を控除すべきである。
また、原告のような街の金融業者がその営業資金として金主から借入れを行い、相当の金利を支払っていること、営業の遂行過程で相当の貸倒損失が生ずることは自明というべき事項であるから、収入について推計を行う以上、これらの必要経費についても推計を行うべきである。
2 利息制限法に違反する利率の未収利息を収入として計上することの不当性について
利息制限法に違反する利率による利息債権は、私法上、その履行を強制できないものであるから、現実に収受していない以上、これを収入として計上することは不当というべきであるところ、昭和四五年分未収利息(被告の主張3項(二)(1)②ハ)のうち資料2別紙一(別紙⑦)番号9ないし25のケンコー食品(株)に対する貸付並びに同四六年分未収利息(同項(三)(1)②ハ)のうち資料2別紙一(別紙③)番号1及び2の立花商事有限会社に対する貸付及び同15ないし31のケンコー食品(株)に対する貸付に係る被告主張の利率は、いずれも利息制限法に違反するものであるから、利息を現実に収受していない以上、収入として計上すべきではない。
3 貸倒損失を必要経費に算入すべきであることについて
(一) 事業所得を生ずべき事業について、その事業遂行上発生した債権の貸倒れ等の事由により生じた損失は、その損失の生じた日の属する年度の必要経費に算入されるべきものであるところ、既往年度の所得金額を事後の調査によって更正する場合や当該課税処分の適否を事後的に判断する訴訟手続においては、当該債権が回収不能となった事実が認められる限り、債権放棄の手続がいつなされたかを問うことなく、当該年度においてこれを必要経費に算入することを肯定しなければ衡平の原則に反するというべきところ、被告は、本件処分の際に、原告が貸倒れが多数ある旨申告したにもかかわらず、当該年度に債権放棄をした書類を提出しない以上必要経費として算入することはできない旨述べて、貸倒れの事実の調査自体を一切しなかったものであり、このような一方的な態度は不当である。
原告は、本件営業による貸付金の返済が滞り、回収の見込みがなくなったものについては、その関係書類を他と区別して保管していたが、所得を過少申告していた関係で貸倒れ損失についても申告しないでいたところ、被告が本件処分をすることが予想される状況となったため、既に回収不能となっていた債権について必要経費であることを認めてもらうべく、昭和四八年三月、確認的に債権放棄の手続をとったものである。 更正処分を行うに当たり、収入について遡って認定する以上、右の貸倒損失についても同様に認定しなければ、不当な課税処分となることは明らかである。
(二) 本件営業に伴う貸倒損失は、以下のとおりである。
(1) 昭和四四年分の貸倒損失合計金一七九六万円
その明細は、資料7番号1ないし16記載のとおりである。
なお、番号5の岡野鉱吉については、同人が経営していた有限会社赤玉物産が昭和四三年八月二〇日に解散し、同人に対する貸付の返済が遅延していたので、同四四年四月二九日に最終的な貸付金額を確認すると共に、その弁済期日を同年一一月三〇日と定めたが、結局弁済を受けることができなかったものである。
(2) 同四五年分の貸倒損失合計金一八〇二万円
その明細は、資料7番号17ないし41記載のとおりである。
なお、番号24ないし26の(株)石田については、手形不渡事故を起こした上、会社整理の手続をとったことからみて貸倒れの事実は明らかであり、番号27の白石達夫についても、その割引手形の振出人である(株)鴎盟荘の役員が昭和四五年二月二八日の選任を最後に改選されず、その後、同社は商法四〇六条の三の規定によって解散されていることに照らすと、同社が同四五年一〇月二五日の手形不渡によって倒産したことが裏付けられるから、右貸付は回収不能となったというべきである。
(3) 同四六年分の貸倒損失合計金二五六三万円
その明細は、資料7番号42ないし49記載のとおりである。
なお、番号44の有限会社名古屋エスピー商会については、昭和四六年九月二一日に役員が選任されて以後、役員の改選は行われておらず、同社の代表取締役であった平塚二朗所有の建物(その所在地は、同社の本店所在地でもある。)につき、同月二二日付で競売開始決定がなされていることに照らすと、右貸付が同年中に貸倒れとなった事実が明らかである。
4 金主からの借入れに係る支払利息を必要経費として算入すべきことについて
(一) およそ、金融業を営む者は、その営業資金を調達するための金主を持ち、同人からの借入金に対して利息を支払うのが常識というべきところ、原告は、本件営業の運転資金として、
(1) 大月進(以下「大月」という。)から、昭和四二年九月一二日、金一〇〇〇万円を借り入れ、これを資料8別表一記載のとおり返済し、
(2) 松岡政勝(以下「松岡」という。)から、同四四年二月ころ、金三〇〇〇万円を借り入れ、これを資料8別表二記載のとおり返済した。
(二) そこで、右借入金の利息として原告が支払った、
(1) 昭和四四年分の金八三四万円、
(2) 同四五年分の金八八八万円、
(3) 同四六年分の金八八八万円
は、いずれも必要経費として、所得金額の算定上、収入から控除すべきである。
六 原告の反論に対する認否
1(一) 原告の反論1項(一)は否認ないし争う。
(二) 同(二)のうち、原告の所得金額が、被告による本件処分等、異議決定及び本訴における主張並びに国税不服審判所長の審査裁決の各段階で異なっていることは認めるが、その余は否認ないし争う。
(三) 同(三)(1)ないし(6)はいずれも否認ないし争う。
2 同2項は否認ないし争う。
3 同3項(一)、(二)はいずれも否認ないし争う。
4 同4項(一)、(二)はいずれも否認ないし争う。
七 被告の再反論
1 推計の合理性に関する被告の再反論
(一) 財産増減法について
原告主張の財産増減法は、投下資本が明らかな場合に適用の余地のあるものであるが、本件においては、投下資本が明らかでないのであるから、これを用いることができない。
(二) 認定所得金額の変遷について
審査裁決における総収入金額は、貸付先判明分として、小口貸付に係るものの外、貸付先三件の収入金額を実額により、他の収入を推計によって算出していたが、その後の被告の調査によって、多数の貸付先が判明したため、その判明分(証書貸付等)については実額により、その余の不明分については推計によって収入を算出したところ、右証書貸付等に係る金員は、必ずしも本件口座へ入金されていないので、実額で把握した収入が増加するのに比し、推計の基礎となる本件口座への入金額はそれほど減少しないこととなった。本訴において被告の主張する所得金額が審査裁決に係る所得金額に比べ増加することとなったのは、右の事情によるもので、何ら不自然なものではない。
(三) 被告の推計方法について
(1) 推計による計算は、実額による把握ができない場合に行われるべきものであり、また、同業者比率方式は、納税者自身について所得金額の算定が不可能なときに用いられるべきものであるところ、本件においては、原告の収入金額の一部が実額で判明しているので、それを基礎に不明分の収入金額を推計するのが最も合理的な方法であるというべきである。
(2) 受取利息割合は、証書貸付等についての総回収額(貸付元金及び受取利息)に対する受取利息の割合であり、次の算式によって表される。
①受取利息=貸付元金×貸付利率×貸付期間であるから、
②受取利息割合=〔受取利息÷(貸付元金+受取利息)〕=〔(貸付利率×貸付期間)÷(1+貸付利率×貸付期間)〕
したがって、理論的には、すべての貸付先判明分について個々の貸付毎にすべての貸付利率及び貸付期間を正確に把握し、その平均利率に平均貸付期間を乗じて前記②の式により求めた数値は、受取利息割合と一致するはずであるから、受取利息割合による推計方法と、平均貸付利率及び平均貸付期間による推計方法とは全く一致することになる。
しかし、原告の貸付先判明分の貸付利率及び貸付期間を検討すると、証書貸付による貸付に限っても、顧客数は三十数名に達し、貸付利率及び貸付期間も各々異なっているのみならず、貸付元本及び受取利息の回収期間も全て異なり、本件係争年毎に回収している事実もない。貸付先不明分の貸付についても、貸付利率、貸付期間及び貸付元本、受取利息の回収期間等につき、異なった取引条件による貸付が多数混在していることが明らかである。
そうすると、このような様々な取引条件をできるだけ反映させるため、原告の本件営業のすべての期間にわたって取引条件を調査し、これを通算することにより、最も実際の取引条件に近似する受取利息割合を算出することができるというべきであるから、被告の調査により判明した限りの取引条件、すなわち貸付先判明分の三年間の総入金額及び受取利息をもって、受取利息割合を算出するのが合理的というべきである。
(3) 被告が標本とした証書貸付等による貸付のうちに、返済の滞った貸付金が回収されたものが含まれているとすれば、推計の対象とした貸付先不明分の貸付のうちにも、このような滞った貸付金の回収が含まれていると考えられるから、判明している限り、できるだけ多くの貸付を算出の基礎とするのが望ましいという推計の性質上、これらの貸付も推計に組み込むべきことは当然である。
(4) 平田関係の貸付を受取利息割合を算出するについて除外したのは、右貸付が、期間、貸付回数、金額等からみて、一般の貸付の取引条件と乖離しているので、これを含めて受取利息割合を算出すると、かえって不正確な数値を導くおそれがあるからであるが、仮に、右貸付を含めて受取利息割合を算出しても、これを基礎として計算した原告の所得金額は、資料9記載のとおりとなり、本件係争年のいずれにおいても、本件処分等のそれを上回るものである。
(5) 被告の推計方法は、本件口座への入金総額から明らかに貸付金の回収でないものを除外した総入金額に受取利息割合を乗ずるものであるが、右総入金額は、少なくとも、貸金債権及び利息債権が存在していたことを示すものであり、右推計方法も、そのような債権の存在を基礎としたものであって現実の入金があったことを基礎とするものではない。
したがって、いったん入金がなされれば、その後に手形等の不渡り、依頼返却等の理由によって当該入金が取り消されても、その債権が存在していることには変わりはないのであるから、これを利息収入の推計の対象としても、不合理であるとはいえない。
(6) 被告は、本件係争年のすべての経費を実額により正確に算出しており、経費については推計の必要性は何ら認められない。仮に被告主張を超える経費が存在するならば、原告において具体的に主張・立証すべきところ、原告はこれをしていないし、原告のような金融業者については、必ずしも収入が増加するに伴って経費が増加するものではなく、増加するとしても、用紙代、印紙代、金融機関の手数料程度のものであって、金額的にはわずかなものにすぎない。
また、支払利息や貸倒損失等の特異的、臨時的に生ずる特別経費については、推計になじまないというべきである。
2 利息制限法違反の利率の未収利息を収入として計上している旨の原告の主張について
ケンコー食品(株)に対する被告主張の利率日歩八銭、立花商事有限会社に対する同じく日歩八銭二厘は、年利二割九分二厘、同二割九分九厘に相当するところ、これらはいずれも履行遅滞による損害金であるから、利息制限法四条一項に規定する制限年利三割を下回っており、同法に何ら抵触するものではない。
3 貸倒損失を必要経費に算入すべきである旨の原告の主張について
(一) 必要経費に算入されるべき貸倒れに当たるというためには、債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その資産状況、支払能力等からみて債権の弁済を受けることができないと認められ、かつ、債権者が当該年度中に、その債務者に対し債権放棄、債務免除等をして、法律上も債務が消滅した場合、あるいは、法律上は債務が存在するが、債務者の破産、事業閉鎖、所在不明、その他右に準ずべき事実が生じ、その債務者の資産状況、支払能力からみて債務全額の回収が明らかに不可能であることが当該年度中に確定した場合であることを要するというべきである。
(二) 通常、取引当事者は、取引に際し、自己の債権の回収の見込みについて十分な注意を払い、かつ、合理的な判断を下しているものと考えられるから、取引により生じた債権は、債務者の破産等の特別の事情が認められない限り、回収可能と推定すべきものであり、この意味で、貸倒れは例外的現象というべきである。
そして、債権者は、相手方の資産状況を把握している上、差押え等の強制履行手段を採るか、債権放棄等を選択するかを任意に選択できるのであるから、原告においても、貸倒れが生じていたのであれば、本件係争年の所得申告の際に、その主張をして右事実を明らかにできたはずであるところ、後記のとおり、原告はこれをしていないのであるから、結局、貸倒損失自体が生じていなかったとしか考えられない。
したがって、本件における原告主張の貸倒損失は、いずれも昭和四八年三月に債権放棄により貸倒れが確定したものであって、本件係争年分に生じた損失に該当しない。
(1) 原告は、本件係争年の所得税確定申告書に貸倒れの事実を何ら記載せず、必要経費に算入していない。また、債務者が手形交換所において取引停止の処分を受けた場合等は、納税者が右確定申告書において申告することにより、少なくとも五〇パーセントにつき債権償却特別勘定繰入額の必要経費算入を認める取扱いになっているところ、原告はこれらの申告を一切していなかったものであり、したがって、原告は、その時点においては、当該債権について貸倒れと判断していなかったというべきである。
(2) 原告は、昭和四七年一〇月ころ、被告係官から所得税調査を受けた際、帳簿書類等の提示を求められながら、債権放棄書に添付して提出している貸付証書、不渡手形及び小切手を提示せず、これらについて説明すらしなかったものであり、本件処分等がなされた後である同四八年三月一四日及び同月二八日に至って、初めて内容証明郵便により債権放棄の意思表示をし、同年五月四日の異議申立ての時点でようやく貸倒損失を主張したに過ぎない。
(三)(1) 岡野鉱吉について
有限会社赤玉物産が昭和四三年八月二〇日に解散されていたとしても、同社は岡野鉱吉の妻が代表者をしていたものであり、岡野鉱吉に対する原告の債権が支払不能となったこととは直接関係がない。また、金七八九万円という高額の債権であるから、差押え等の法律上の回収手続を採るのが通常であるところ、原告はこれをしていない。
(2) (株)石田について
(株)石田振出の手形及び小切手三通が、昭和四五年八、九月に不渡りとなったとしても、代表者個人の保証の有無、不動産担保の有無等によっては回収の可能性があり、また、同社が会社整理の手続を行ったとしても、配当がなされることがあるから、これが確定するまでは全額について回収不能とはいえない。
(3) 白石達夫について
白石に対する債権は、(株)鴎盟荘及び浅田夏子が振出人となっている約束手形債権であるからすべての手形上の債務者が支払不能であることが客観的に確定して初めて貸倒れとなるところ、白石自身や浅田等に対する回収不能の事実は何ら主張されず、また、(株)鴎盟荘の解散は、昭和五四年一二月二日であるから、本件係争年における貸倒れの事実を推認させるものではない。
(4) 有限会社名古屋エスピー商会について
有限会社名古屋エスピー商会の役員選任登記は、昭和四六年九月二一日にされているから、同社は、同年一二月ころまで営業を継続していた可能性が高い。また、金八〇五万円という高額の債権でありながら、法的な清算手続の有無等が一切不明である。
4 金主に対する支払利息について
大月及び松岡から事業資金を借り入れ、利息を支払った旨の原告の主張は、以下の点からみて認めがたい。
(一) 原告は、本件係争年から八ないし一〇年も経過した後に、昭和五四年四月一一日付準備書面において初めて大月及び松岡に対する支払利息について主張したものであり、国税不服審判所長の審査の際には、金主を明らかにするように勧告を受けたにもかかわらず、これを明らかにしなかったものである。
(二) 本件処分等は、原告の所得を、一部推計によって算出しているが、金融業の性質上、調査は困難を極め、最小限度の所得金額しか把握できなかったところ、原告が大月及び松岡から合計金四〇〇〇万円もの資金を借り入れているのであれば、当然、これに見合う収入が計上されるべきであり、そうでないと、一方では所得を隠匿しながら、他方では経費だけを主張することとなり、均衡を失することが明らかである。
(三) 仮に、原告主張の借入れがされたのであれば、年利二割四分(大月分)ないし二割一分六厘(松岡分)という高金利の支払をしていることになるが、他方で原告は、貸付利率を月二分五厘から三分(手形割引料)、月三分(証書貸付)と主張しており、貸倒れ等の営業リスクを考慮すると、両者は矛盾し両立しがたいというべきである。
八 被告の再反論に対する認否
1(一) 被告の再反論1項(一)は争う。
(二) 同項(二)は争う。
(三) 同項(三)(1)ないし(6)は、いずれも否認ないし争う。
2 同2項は否認ないし争う。
3(一) 同3項(一)は争う。
(二) 同項(二)(1)、(2)は、いずれも否認ないし争う。
原告は、本件係争年分の所得税確定申告に当たり、債権放棄等による貸倒れを必要経費に算入する処理をしなかったものであるけれども、本件のように事後になって遡って更正処分がされる場合には、当該債権を発生した事業(金融業)廃業後に債権放棄の手続をしたときであっても、当該貸倒れの必要経費算入を既往年分に遡って認めることが公平の原則にかなうものというべきである(所得税法六三条参照)。
なお、被告主張の債権償却特別勘定への繰入れに関する取扱いは昭和四六年に初めて公開されたものであり、本件係争年分の所得税確定申告の当時、原告は、これを知らなかった。
(三) 同項(三)(1)ないし(4)は、いずれも否認ないし争う。
4 同4項は否認ないし争う。
第三 証拠<省略>
理由
一争いのない事実と本件の争点
請求原因1(課税処分の経緯)、被告の主張1(当事者)及び同3の(三)の(3)(昭和四六年分の不動産所得 金一二万四五九七円)の各事実はいずれも当事者間に争いがなく、本件の争点は、本件係争年の原告の金融業に係る事業所得の金額につき、被告の認定金額が過大なものではないということができるか否かということである。
また、被告は原告の本件係争年の事業所得を認定するに当たり、収入金額の一部を推計によって算定しているところ、被告の主張2(推計の必要性)の事実は当事者間に争いがなく、右事実によれば、これを実額で明らかにし得る資料の提出がないのであるから、推計によってこれを算定することは、その方法が合理的である限り許容されるものであり、本件では、被告の採用した推計方法の合理性が争点である。
二収入金額について
被告の主張する原告の本件係争年の収入金額(金融業に係る利息収入)は、本件台帳に記載された小口貸付に係る利息収入、本件口座への入金状況等から被告が貸付先を把握することができた証書貸付等に係る利息収入及び本件口座への入金状況等に基づき推計により算定した貸付先不明の貸付に係る利息収入という三種類の利息収入によって構成されている(ただし、昭和四四年分については、本件台帳に記載された小口貸付に係る利息収入は把握できなかったとされている。)。そこで、以下、右各利息収入金額の認定の適否について順次検討し、被告の認定した収入金額の適否について判断することとする。
1 本件台帳に記載された小口貸付に係る利息収入
(一) <証拠>によれば、本件台帳は、昭和四七年一〇月末ころ、税務調査のために原告事務所に赴いた被告係官の求めに応じて原告が提示したものであること、本件台帳は、原告が行った貸付のうち比較的少額の貸付及び電話加入権に質権を設定して行った貸付で、右の時期ころまでに返済が完了していないものについて、その貸付及び返済の状況を記載した帳簿であり、その記載内容は基本的に信頼することができるものであることが認められる。そして、本件台帳の記載によれば、本件台帳に記載された貸付に係る利息収入の明細は、昭和四五年分については資料2別紙二(ただし、後記(二)の訂正分を除く。)記載のとおりであり、同四六年分については資料2別紙三(ただし、後記(二)の訂正分を除く。)記載のとおりであることが認められる。
(二) 原告は、資料2別紙二及び同三記載の内容の一部につき、資料6別紙一及び同二記載のとおり、本件係争年より前又は後の利息収入であるなどと主張するところ、確かに、本件台帳中に記載された年を前提にすると被告認定とは異なる結果となるものや本件台帳に年の記載のないものが存するので、以下これらについて検討することとする。
(1) まず、本件台帳中には、記載された年を信用するとその後数年間連続して記帳されている返済の最後の部分が昭和四八年以降になるものがあるが、前記認定のとおり、本件台帳は昭和四七年一〇月末ころに提示されたものであり、その時期までの貸付及び返済の状況を記帳したものであるから、そこに記載された利息収入が昭和四七年一一月以降のものであることはあり得ないはずであり、右のようなものは、本件台帳に記載された年が誤記であると解さざるを得ない。
したがって、<証拠>の青山秀夫分の「四八年」の記載は「四五年」の誤記と解すべきであり(ただし、もともと右記載は必ずしも明瞭ではなく、「四五年」と読めないでもない。)、また、<証拠>の加藤一枝分の「四七年」の記載は「四五年」の誤記と解すべきであり、これらについて右と同様に解してした被告の認定は相当であるというべきである。
これに対し、被告は、<証拠>の堀義清分については、本件台帳に「四五年」と記入してあるのを「四六年」の誤記として取り扱っているが、そのような取扱いをすると、かえって最後の返済の部分が昭和四七年一一月八日となってしまうので、むしろ本件台帳の記載を信用し、昭和四五年分の収入利息が金三万四六五〇円、同四六年分が金四万九五五〇円と認めることが相当であり、同四五年分の収入利息がなく、同四六年分の利息収入を金三万四六五〇円としている資料2別紙二及び同三の記載は、右のとおり訂正されるべきである。
なお、<証拠>の松田幸吉分の「四四年」の記載は、同五〇枚目の「四五年」及び同五一枚目の「四六年」の記載に照らし、「四五年」の明白な誤記というべきであり、これを同様に解してした被告の認定は相当であるというべきである。また、<証拠>の山本八郎分の「四五年」の記載は、同七一枚目の「四七年」の記載及び最後の日付が一〇月一九日で一一月一九日の利息入金の前であり、本件台帳の提示された時期に符合することに照らし、「四六年」の明白な誤記というべきであり、これを同様に解してした被告の認定は相当であるというべきである。
(2) 次に、本件台帳中には、年の記載のないものがあるが、これらについては、本件台帳が昭和四七年一〇月末に提示されたものであり、これに記載されている取引は返済が完了していない取引継続中のものであることに照らすと、特段の事情がない限り、最終の返済等の時期が昭和四七年一〇月に近接し、かつ、それ以前の時期であると考えて年を決定するのが合理的である。
したがって、<証拠>の太田義治分、<証拠>の森辰蔵分、<証拠>の中根優分、<証拠>の吉澤国夫分、<証拠>の松田幸吉分、<証拠>の宮地正子分、<証拠>の竹村尚典分、<証拠>の深見政弘分、<証拠>の岩本健夫分、<証拠>の滝昭三分、<証拠>の小野八郎分、<証拠>の津下健一分、<証拠>の米沢清二分、<証拠>の山田守一分、<証拠>の桐部喜三郎分、<証拠>の太田英作分、<証拠>の横田正清分及び<証拠>の森眞治分について、右と同様に解してした被告の認定は相当であるというべきである。
なお、<証拠>の三田村互三分については、年の記載がないが、<証拠>の「四六年」及び<証拠>の「四七年」の記載に照らし、昭和四四年ないし同四六年分の記載と解すべきであり、同様に解してした被告の認定は相当である。
(3) これに対し、資料2別紙二及び同三のうち、本件台帳に年の記入があり、かつ、それを信用しても、返済の最後の部分が昭和四八年以降にはならないにもかかわらず、右記載を否認して、返済の最後の部分が昭和四七年になるように解したものについては、右のように本件台帳に記載された年を否認する資料ないし理由が必ずしも十分ではないので、むしろ右記載の方を信用することが適当であるというべきである。
したがって、<証拠>の奥村良三分については、本件台帳に記入された「四五年」を信用し、昭和四五年分の収入利息が金一万六〇〇〇円、同四六年分の収入利息が金二万七四〇〇円と認めることができ、同四五年分の利息収入はなく、同四六年分の利息収入を金一万六〇〇〇円としている資料2別紙二及び同三の記載は訂正されるべきである。また、<証拠>の野崎光雄分については、本件台帳に記入された「四三年」を信用し、昭和四四年分の利息収入が金九万円、同四五年分の収入利息が金五万九〇〇〇円と認めることができ、同四五年分の利息収入が金二万三四〇〇円、同四六年分の利息収入を金九万円としている資料2別紙二及び同三の記載は右のように訂正されるべきである。
(三) 以上のとおりであるから、本件台帳に記入された小口貸付に係る利息収入は、昭和四四年分が金九万円、同四五年分が金二〇二万九七七〇円及び同四六年分が金二六九万四五一〇円であると認めることができる。
2 証書貸付等に係る利息収入
(一) <証拠>によれば、証書貸付等に係る利息収入に関する被告の主張事実(被告の主張の3のうち、(一)の(1)の1、(二)の(1)の2及び(三)の(1)の2の各事実)を認めることができ、右認定に反する原告本人尋問の結果は、後記(二)のとおり、前掲各証拠に照らし、信用することができず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
なお、被告は、原告が一部の貸付の取引関係につき自白の撤回をしたことに異議がある旨主張するが、自白に拘束力が認められるのは当該自白が主要事実に係るものである場合であるところ、課税処分の取消訴訟においては、主要事実は、所得を構成する収入金額及び経費の額であって、収入金額を構成する個々の取引の内容及び結果は間接事実にすぎないのであるから、これらの事実についての自白は、当事者を拘束するものではなく、また、裁判所は、右自白に係る内容に関し証拠によって事実を認定することを妨げられないものというべきである。
(二) ところで、原告は、前項で認定した利息収入を争い、一部の取引について取引関係の存在ないし貸付の利率等を否認し、原告本人尋問の結果中には右主張に沿う内容の供述が存するので、以下、この点について、更に検討を加えることとする。
(1) <証拠>によれば、証書貸付等に係る利息収入についての被告主張事実は、貸付先に対する書面等による照会に対する回答書、貸付先から直接聴取した結果を記載して申述者の署名押印を得た聴取書等に基づくものであり、右各書類の記載内容は、借入年月日、借入金額、借入方法、返済年月日、返済金額、支払った利息の金額、その支払年月日及び利率等の事項の全部ないし相当部分について具体的に明らかにしたものであり、その申述内容及び記載内容の具体性等からみて、大体は帳簿又はこれに準じる書類等に基づき、正確に内容を表示したものと推認することができる。
(2) これに対し、原告は、原告本人尋問において、証書貸付等に係る利率は月二分ないし三分(担保又は信用のある者に対しては月二分、そうでない者に対しては月三分)であるとして、個々の貸付先に対する被告の調査結果よりも低い利率で貸し付けていたこと、近藤信雄等に対する貸付は存在しないことなどを供述するが、これらの主張を裏付ける帳簿等の資料の提出をしない。この点に関し、原告は、証書貸付等に係る帳簿は作成していなかったと主張し、その旨原告本人尋問において供述するが、原告本人尋問の結果自体からも、より低額の小口貸付については本件台帳を作成して管理しているのにより高額の証書等貸付について帳簿等を作成しない合理的な理由はないこと、証書貸付等として本件で被告が主張している分以外にも、同様の貸付が相当額あること、貸付先は相当多数に上り、この貸付ないし返済状況を帳簿等を作成しないで管理することは困難であること等の事実を認めることができるのであり、これらの事実を総合すると、証書貸付等に係る帳簿は作成していなかった旨の原告の供述は到底信用することができない。そうすると、裏付けとなる帳簿等を敢えて提出しないでした原告の前記供述の信用性は低いものといわざるを得ず、前掲の回答書、聴取書等の記載等に照らし、結局信用することができない。
(3) 次に、原告は、広谷竹夫、パール電機設備株式会社、大和広告株式会社、株式会社団地新聞奥様ジャーナル、オリエンタルトレーディング株式会社、不二観光株式会社、浜田通夫、株式会社杉山鉄工所、堀口安一(有限会社一洋)等と原告の間にはいずれも直接の取引はなく、原告は間に入ったブローカーその他の者に対して月三分程度の低利で貸し付けたものである旨主張する。
確かに、<証拠>によれば、株式会社杉山鉄工所は中島直助を介して原告から金員を借り受けていること、<証拠>によれば、パール電機設備株式会社の借受けは長谷川清廣を介してされていたこと、<証拠>によれば、浜田通夫は平田忠を通じて原告から手形の割引を受けていたこと、<証拠>によれば、大和広告株式会社については、広瀬武信に対して振り出した額面二〇万円の融通手形を同人が原告に割引してもらったものであることがそれぞれ認められる。しかしながら、<証拠>によれば、不二観光株式会社からの照会回答書は、昭和四五年五月一〇日借入分の支払利息以外はすべて帳簿に基づいて記載されたものであり、借入れに際して持ち込まれた手形の決済は不二観光が原告の預金口座に直接振り込む形でされていることを認めることができ、また、<証拠>によれば、オリエンタルトレーディング株式会社も結果的には原告と直接取引をしていることを認めることができ、また、<証拠>によれば、浜田通夫も原告の預金口座に直接入金して返済していることを認めることができ、また、<証拠>によれば、株式会社杉山鉄工所も、借入れに際して振り出した手形及び小切手の決済の多くを原告の預金口座に直接振込入金する方法でしていることを認めることができ、また、<証拠>によれば、堀口安一は原告から直接借入れを行い、原告の預金口座に振込入金する方法で返済していることを認めることができる。なお、<証拠>によれば、大和広告株式会社の関係は、広瀬武信が借入金の返済をし、同社は、手形の決済が四か月遅れたため、その間に手形金額二〇万円に対し、月一割の割合で毎月二万円、合計八万円の利息の支払をしたというものであり、結局、被告主張どおりであることが認められる。
これらの事実、前記認定のとおり、証書貸付等に係る貸付利率は原告主張の月三分程度の二倍ないし三倍程度のものが多いこと及び弁論の全趣旨を総合して考えると、前記各貸付先に対する貸付が行われた際に第三者が間に立ったとしても、当該貸付は原告から右貸付先に対して行われたものというべきであり、かつ、その貸付利率は原告主張のように月三分程度ではなく、各貸付先が被告の調査に対して回答した前掲各乙号証記載の利率ないし支払利息額を信用することが相当であるというべきである。
(4) また、<証拠>によれば、平田忠及び松村吉雄に対する貸付に係る利息収入についての被告主張は、本件原告を原告とし平田忠及び松村吉雄らを被告とする手形訴訟事件記録(<証拠>)の中の平田忠及び松村吉雄の主張(相殺の抗弁の自働債権として、利息制限法違反の貸付金返済の結果生じた過払による不当利得返還請求権の存在を主張したもの)を記載した準備書面に基づくものであるところ、右各事件は手形判決に対する異議の取下げにより終了しており、右準備書面記載の内容が裁判所によって認定されたものではないことが認められる。しかしながら、<証拠>によると、右準備書面の記載は実質的な借主であった会社の帳簿に基づいて作成されたものであること、原告の預金口座と判明しているものだけについてみても、本件係争年に平田忠から多数回にわたり合計約金一億七〇〇〇万円の金員が振込入金されていること、異議を取り下げたのは、原告が松村吉雄の財産の差押えをしたことや同胞からの忠告などを理由とするものであること、原告は、このような多額の貸付金債権の管理のために当然作成されたはずの帳簿等は存在しないとして、その提出をしないこと、被告は、被告主張の利息収入の計算に当たり、前記準備書面に記載された支払利息のうち貸付年月日又は元本額が不明なものなどは除外していることが認められ、これらの事実を総合すると、平田忠及び松村吉雄に対する貸付に係る利息収入についても被告主張事実を認めることができ、これに反する<証拠>は信用することができないというべきである。
(三) なお、原告は、昭和四五年分及び同四六年分未収利息のうちケンコー食品株式会社に対する貸付並びに同年分未収利息のうち立花商事有限会社に対する貸付に係る被告主張の利率は利息制限法に違反するものであり、利息を現実に収受していないものについては、収入として計上すべきではない旨主張する。しかしながら、<証拠>によれば、被告が原告のケンコー食品株式会社及び立花商事有限会社に対する貸付に係る未収利息として計上しているものの利率は利率日歩八銭二厘(年利二割九分九厘)及び日歩八銭(年利二割九分二厘)であるが、これらの利率は、いずれも返済期限後の遅延損害金の利率であることが認められるのであるから、利息制限法四条一項に規定する年三割を超えるものではなく、同法に違反するものではないのであるから、原告の主張は前提を欠くものであり、理由がない。
3 貸付先不明の貸付に係る利息について
(一) 被告の推計方法の合理性について
被告主張の貸付先不明分の利息収入の推計方法(ただし、受取利息割合を算定するに当たり、平田関係の貸付を除かないで計算する方法。以下「本件推計方法」という。)は、本件口座への入金総額から除外分(貸付先の判明している証書貸付等に係る貸付元金及び利息の入金、金融機関からの借入金及び預金利息の入金、貸付金の回収かどうか明らかでない現金による入金その他貸付金の回収と認められない入金)を控除した金額に受取利息割合(実額が把握できた証書貸付等に係る利息の入金額の合計額が同総入金額(利息の入金額と貸付金の回収額の合計)に占める割合)を乗じて算定するというものであるが、<証拠>によれば、本件口座は原告本人名義、家族名義、他人名義及び架空人名義のものいずれについても原告の貸付先から多数かつ多額の入金があり、原告の金融業の貸付元金及び利息の入金に用いられていたものであることを認めることができ、本件口座の預金通帳は一定限度で貸付台帳と同様の内容のものということができるのであるから、本件口座への入金総額から右のように貸付金の回収又は利息の入金ではないと認められるもの及び貸付金の回収又は利息の入金かどうか不明のものを控除した金額を貸付先不明分に係る貸付金の回収及び利息の入金の金額とみなすことは相当な方法であり(<証拠>によれば、原告がこのように本人名義でないものを含めて多数の預金口座を開設して利用したのは税務当局に所得を捕捉されることを免れるためであり、本件口座以外にも同様の預金口座が存在する可能性があること、預金口座を通さずに貸付金の回収又は利息の入金がされる場合があったことを認めることができ、また、前記のとおり除外分の中に貸付金の回収又は利息の入金かどうか不明のものも含まれているのであるから、右の方法は、貸付先不明分に係る貸付金の回収及び利息の入金の金額を算定する方法としてはむしろ控え目な方法であるということができる。)、また、右のようにして算定された貸付先不明分に係る貸付金の回収及び利息の入金の金額の合計額に受取利息割合を乗じて利息の入金額を算定する方法は、受取利息割合が証書貸付等の貸付金及び利息の合計額中に占める利息の金額の割合であること(証書貸付等の貸付期間、利率等の条件が様々であること、その内容が各年ごとに異なるという性質のものではないことなどから、受取利息割合を算出するに当たっては、被告主張のように、本件係争年一年ごとではなく、本件係争年全体を通じてこれを算出することが合理的であるということができる。)、右証書貸付等は本件口座への入金状況に基づき被告が貸付先を把握できた貸付であり、その貸付条件等は同じく本件口座への入金状況に基づいて算定した貸付先不明分に係る貸付のそれと大体同様であると考えられることに照らし、合理的であるというべきであり、したがって、本件推計方法は、合理性を有する推計方法であるということができる。
なお、被告は、受取利息割合を算定するに当たり、証書等貸付のうち平田関係の貸付を除くべきである旨主張し、そのような取扱いをする理由として、右貸付が期間、貸付回数、金額等からみて一般の貸付の取引条件と乖離しているので、これを含めて受取利息割合を算出すると、かえって不正確な数値を導くおそれがあるということを挙げるけれども、受取利息割合を算定するに当たっては、原告が実際に行った期間、貸付回数、金額等において様々な多数の貸付先に対する貸付を合わせて計算して平均値を出すことに意味があるのであり、貸付先不明分に係る貸付の中にも期間、貸付回数、金額等において様々な多数の貸付先に対する貸付があり得ることを考えると、被告主張のように特定の貸付先に係る貸付を除外して計算することは適当ではないというべきである。そこで、平田関係の貸付を除外しないで受取利息割合を計算すると、<証拠>によれば、受取利息割合は10.89パーセントであることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
(二) 本件推計方法が不合理である旨の原告の主張について
原告は、様々な理由を挙げて本件推計方法が不合理である旨主張する(五(原告の反論)の1参照)が、以下に述べるとおり、いずれも理由がない。
(1) まず、原告は、原告の資産は営業開始時と比較してほとんど増加しておらず、財産増減法によれば原告の所得金額は本件推計方法による場合のように大きな金額にならないはずであり、これは本件推計方法の不合理性を示すものである旨主張するが、財産増減法とは、期末純資産額と期首純資産額との差額により所得金額を推計する方法であるところ、本件においては、原告の期首及び期末における純資産額ないし資産及び負債の額を正確に把握することができる証拠はなく、原告自身これを明らかにしないのであるから、結局、原告の右主張は、その前提を欠くものであって採用できない。
(2) また、原告は、被告の認定に係る原告の所得金額が原処分から不服申立て段階において変遷していることは本件推計方法の不合理性を示すものである旨主張するが、証人大西信之の証言及び弁論の全趣旨によれば、右変遷の主な理由は、被告が原処分の後に改めて行った反面調査等の結果貸付先が新たに多数判明したことであることを認めることができ、結局、右の点は、本件推計方法の合理性を否定する根拠となるものではない。
(3) さらに、原告は、本件推計方法自体の不合理性を種々主張するが、本件推計方法がそれ自体として合理性を有するものであることは前記(一)で判示したとおりであり、また、いわゆる同業者比率法等によるよりも、できる限り実額で所得を求め、実額調査が十分にできなかった部分に限り本件推計方法のように本人比率を用いる方法による方がより実額に近い所得金額を得ることが可能であって合理的であるということができる。また、受取利息割合算定の基礎とした証書貸付等に係る受取利息金額及び貸付金回収金額がいずれも信用に値する資料に基づいて求められたものであることは前記2で判示したとおりである。
さらに、原告は、貸付元金に平均貸付利率と平均貸付期間を乗じて利息収入を推計すべきであるとか、受取利息割合を算出する基礎となった貸付は被告が実額を把握することができたものだけであるので、受取利息割合は原告の貸付の実体を反映していないなどと主張するが、本件においては、被告の調査に対し原告が協力しなかったために貸付元金がいくらであったのかが把握できず、原告主張のような推計方法を採る余地はなかったものであり、そのような状況下で本件口座への入金状況等によって明らかになった証書貸付等の内容から受取利息割合を求め、これを同じく本件口座への入金状況等によって明らかになった貸付先不明分の貸付先からの入金総額に乗じて利息収入金額を推計したことはやむを得ないことであり、右の点をもって本件推計方法の合理性が否定されるものではない。また、本件推計方法は最終的に現実に回収された利息金額を推計するためのものではなく、利息収入として計上すべき利息債権の金額を推計するものである(履行期の到来した利息及び損害金は、「収入すべき金額」に当たり、収入を構成する。)から、貸付先不明分に係る本件口座への入金総額から割引手形または小切手による入金で当該手形等が決済されなかったものを除外しないまま行ったとしても、何ら不合理であるとはいえない。
また、原告は収入について推計する以上必要経費についても推計を行うべきである旨主張するが、被告は、本件推計方法によって推計した収入に対応する経費が存在しないとしているのではなく、経費については全額実額で認定した上で、収入の一部について推計によって算定しているのであるから、原告の主張が採用できないことは明らかである。
(三) 貸付先不明の貸付に係る利息金額
<証拠>によれば、本件口座への入金総額が昭和四四年分は金一億七三九七万六一六四円、同四五年分は金三億一九〇〇万八九八三円、同四六年分は金二億八七二一万二七五二円であり、右各金額のうち本件推計方法によるために除外すべき入金の合計額が同四四年分は金七五八二万三六二〇円、同四五年分は金二億〇五三四万四四五〇円、同四六年分は金一億八三一六万七〇三〇円であること並びにこれらの内訳は資料3別紙①ないし記載のとおりであることを認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。この結果、本件推計方法に従って算出される貸付先不明の貸付に係る入金総額は、右の本件口座への入金総額から同除外すべき入金の合計額を差し引いた残額、すなわち、同四四年分は金九八一五万二五四四円、同四五年分は金一億一三六六万四五三三円、同四六年分は金一億〇四〇四万五七二二円ということになる。これらの金額にそれぞれ前記受取利息割合10.89パーセントを乗じて推計した貸付先不明分の貸付に係る利息収入(一円未満切捨て)は、昭和四四年分が金一〇六八万八八一二円、同四五年分が金一二三七万八〇六七円、そして、同四六年分が金一一三三万〇五七九円である。
三経費の額について
1 必要経費については、被告主張の金額が必要経費として総収入金額から控除すべきものであることは当事者間に争いがなく、問題はそのほかの経費の存否であり、具体的には、原告主張の貸倒損失及び金主に支払った借入利息の存否が問題となる。
2 貸倒損失について
(一) 所得税法五一条二項は、事業所得を生ずべき事業について、その事業の遂行上生じた貸付金債権等の貸倒れにより生じた損失の金額は、その損失の生じた日の属する年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入する旨を規定しているが、右の規定により貸倒損失として必要経費に計上できるのは、原則として、債務者に対し債務免除の意思表示をしたときなど債権が法律上消滅した場合(ただし、債務者に対する実質的な贈与と認められるものであるときは、その債権の消滅は貸倒れには当たらないので、右の債務免除の意思表示は、債務者の債務超過の状態が相当期間継続してその貸金等の弁済を受けることが困難であると認められる状況で行われたものでなければならない。)又はその債務者の資産状況、支払能力等からみて貸付金等の全額が回収できないことが明らかになったときなど法律上債権は存在するがその回収が事実上不可能である場合のいずれかに該当することが必要であるというべきである。
なお、右の後者の場合に当たるというためには、前者の場合との均衡、課税金額計算の明確性の要請等に照らし、当該年中に弁済期が到来している債権につき、債務者の倒産、失踪等の事情が生じ、貸付金の回収の見込みがないことが客観的に確実になったことを要すると解すべきである。したがって、たとえ手形貸付をした場合に当該手形が不渡りとなったとしても、そのことのみによって当然に貸付金回収の見込みがないことが客観的に確実になったということはできないというべきであり、客観的に右回収の見込みのないことが確定したときに、初めて貸倒損失として必要経費への算入が認められることになる。
(二) <証拠>によれば、原告が、資料7の債務者氏名欄記載の各債務者に対し、それぞれ書面で債務免除の意思表示をしたこと、右債務免除の意思表示は、いずれも弁済期にある債務について、当該債務者らから貸金等の弁済を受けることが困難であると認められる状況で行われたことを認めることができるが、前掲各証拠によれば、右債務免除の意思表示がされたのはいずれも昭和四八年三月ころであることを認めることができるのであるから、これらの貸付金債権は、右債務免除の意思表示によって法律上消滅したことを理由にこれらを貸倒れと認定できるとしても、いずれも本件係争年に生じた損失であるとはいえないことが明らかである。
(三) 原告は、右債務免除の意思表示は確認的に行っただけであり、右各債権は、本件係争年中に回収の見込みがなくなったものである旨主張するので、以下検討する。
(1) 井上正二に対する債権金五〇万円について
<証拠>によれば、原告は、井上正二に対し、金一五万円を小切手貸付したこと、同人振出に係る右小切手は昭和四四年一月二九日に不渡りとなったことを認めることができる。しかし、<証拠>によれば、原告は、前に不渡りになった分は返すからもう一度貸してくれといわれて、同人に対し、右不渡りの日の後である同年三月五日に金一五万円を弁済期同年五月四日の約定で、また、同年三月一〇日に金二〇万円を弁済期同年四月九日の約定で、それぞれ貸し付けていることが認められる。そうであるとすると、右不渡りがあったからといって井上正二に対する貸付金回収の見込みがないことが客観的に確実になったということができないことは明らかであり、そのほかに本件係争年中に同人に対する貸付金回収の見込みがないことが客観的に確実になったことを認めるに足りる的確な証拠はないのであるから、同人に対する前記各債権合計金五〇万円(ただし、<証拠>によれば、昭和四四年三月五日にした金一五万円の貸付が、不渡りになった小切手貸付を証書貸付に切り替えたものか否かについて、原告自身はっきり覚えていないことが認められる。)を本件係争年の貸倒債権と認めることはできない。
(2) 青松勲に対する債権金一〇万円について
<証拠>によれば、原告は、青松勲に対し、金一〇万円を手形貸付し、右手形が昭和四四年四月二一日に不渡りとなったことを認めることができるが、本件係争年中に右貸付金回収の見込みがないことが客観的に確実になったという事実については、原告本人尋問の結果中に、不渡りになった時点で青松勲の所在がはっきりしなかった旨の供述はあるものの、右供述内容は具体性を欠き、これを裏付ける客観的証拠が一切ないこと、また、<証拠>によれば、原告が、昭和四八年三月一三日付で青松勲の右手形の振出人欄記載の住所に宛てて発した内容証明郵便中には「私は右約束手形にもとづき貴殿に支払方を請求してきましたが貴殿は無資力を理由に右請求に応じられません。よって私は本書において貴殿に対する前記約束手形金債権を放棄します」という記載があること、更に<証拠>によれば、原告は本件係争年の確定申告及び本件更正後の不服申立て手続においては貸倒債権の存在及び内容について具体的な主張をしていなかったことがそれぞれ認められることに照らすと、右供述のみにより本件係争年中に青松勲が所在不明になって右貸付金回収の見込みがないことが客観的に確実になったという事実を認めることはできず、他に右事実を認めるに足りる的確な証拠はない。したがって、青松勲に対する金一〇万円の債権を本件係争年の貸倒債権と認めることはできない。
(3) 岡野鉱吉に対する債権金七八九万円について
<証拠>によれば、原告は、岡野鉱吉に対し、有限会社赤玉物産を保証人として、昭和四四年四月二九日に弁済期を同年一一月三〇日として金七八九万円を貸し付けたが、右債権の回収ができなかったことを認めることができる。しかし、本件係争年中に右貸付金回収の見込みがないことが客観的に確実になったという事実については、<証拠>中に、実際上は岡野鉱吉が経営していた有限会社赤玉物産が倒産し、右弁済期当時調査したが、岡野鉱吉個人からも右会社からも取れるものがなかった旨の供述はあるが、<証拠>によれば、右会社は右貸付より前の昭和四三年八月二六日に既に解散していることが認められること、また、原告本人自身が原告本人尋問において裁判官からの「いつごろどういうような事情で貸し倒れということになったんでしょうか」という問いに対して「細かいところまでは記憶にありません」と答えていることに照らすと、前記供述の信用力は低いものというべきであり、結局、本件係争年中に右貸付金回収の見込みがないことが客観的に確実になったという事実を認めることはできない。したがって、岡野鉱吉に対する金七八九万円の債権を本件係争年の貸倒債権と認めることはできない。
(4) 和泉光好に対する債権金二八万円、今井録郎に対する債権金三万円、服部鐘一に対する債権金四万円、浅野弘司に対する債権金三万円、遠藤義守に対する債権金五万円、近藤重雄に対する債権金一一万五〇〇〇円、矢野正男に対する債権金一〇万円、津司一郎に対する債権金八六二万五〇〇〇円、佐藤武男に対する債権金一〇万円及び青山汎子に対する債権金一〇万円について
<証拠>によれば、原告は、標記の各債務者に対し昭和四四年中に弁済期を同年中の日と定めて標記金額を貸し付けたが、右債権の回収ができなかったことを認めることができる。しかし、本件係争年中に右貸付金回収の見込みがないことが客観的に確実になったという事実については、<証拠>中に、それぞれ債務者は夜逃げしたとか居所がわからなくなったなどの供述があるが、他方、弁論の全趣旨によれば、原告は、本件係争年の所得の申告に際し、これらの債権を必要経費に算入できる貸倒債権として計上していないことが認められ、また、右供述はその内容自体からも必ずしも明確な記憶又は資料に基づくものではないことが窺われ、かつ、右各供述を裏付ける的確な証拠がない上、そのような具体的事実が生じた時期が本件係争年中であるか否かについて、必ずしも的確な供述があるとはいえない。また、原告本人尋問の結果中には、標記債権のうち保証人のあるものについて、当該保証人が無資力であった等の供述はあっても、本件係争年中に当該保証人からの債権回収の見込みまでないことが客観的に確実になったという事実を認めるに足りる的確な証拠はなく、結局、本件係争年中に右貸付金回収の見込みがないことが客観的に確実になったという事実を認めるに足りる証拠はないというべきである。したがって、標記債務者に対する標記金額の債権を本件係争年の貸倒債権と認めることはできない。
(5) 東海教育映画株式会社に対する債権金一〇〇万円及び今泉正人に対する債権金一六万五〇〇〇円について
<証拠>によれば、今泉正人は東海教育映画株式会社の代表取締役であること、原告は、同社に対し、昭和四四年一二月五日、金一〇〇万円を、弁済期を同四五年四月五日と定め、今泉正人を連帯債務者及び連帯保証人として貸し付けたこと、また、原告は、今泉正人に対し、金一六万五〇〇〇円を弁済期を昭和四五年五月二九日として、東海教育映画株式会社振出の約束手形により手形貸付したが、右手形が同日に不渡りとなったこと、右貸付金はいずれも回収されなかったことを認めることができるが、本件係争年中に右貸付金回収の見込みがないことが客観的に確実になったという事実については、原告本人尋問の結果中に、会社倒産後今泉がどこへ行ったか行方不明になった旨の供述はあるものの、右供述内容は具体性を欠き、これを裏付ける客観的証拠が一切ないこと、また、<証拠>によれば、原告が、昭和四八年三月一四日及び同月二二日付で右会社及び今泉正人の本店所在地及び元の住所に宛てて発した内容証明郵便中には、原告が債務者らに対し再三弁済方を請求してきたが無資力を理由に請求に応じないので債権を放棄する旨の記載があることが認められることに照らすと、右供述のみにより本件係争年中に右会社が倒産し、今泉正人が所在不明になって右貸付金回収の見込みがないことが客観的に確実になったという事実を認めることはできず、他に右事実を認めるに足りる的確な証拠はない。したがって、東海教育映画株式会社及び今泉正人に対する右各債権を本件係争年の貸倒債権と認めることはできない。
(6) 水谷弘に対する債権金五〇万円及び株式会社石田に対する債権金三七九万円について
<証拠>によれば、原告は、水谷弘に対し、昭和四四年一二月一九日、弁済期を同四五年二月一八日と定め、石田浩一郎を連帯債務者及び連帯保証人として金五〇万円を貸し付けたこと、また、原告は、石田浩一郎が代表取締役である株式会社石田に対し、金三六五万円を同年九月一〇日を弁済期として手形貸付し、また、同年八月二五日、金一四万円を小切手貸付したが、右手形は同年九月一〇日に、右小切手は同年八月二五日にそれぞれ不渡りとなったこと、右の貸付金はいずれも回収されなかったことを認めることができる。しかし、本件係争年中に右貸付金回収の見込みがないことが客観的に確実になったという事実については、<証拠>中に、水谷弘の家に行ったら、同人の親はいたが同人はいなかった旨及び株式会社石田は不渡りを出して倒産した旨の各供述があるものの、株式会社石田振出の手形及び小切手が不渡りとなったとしても、そのことのみによって当該会社が倒産して貸付金の全額が回収できないことが明らかになったとまではいえないというべきである。なお、<証拠>によれば、昭和四五年八月ないし九月ころに同社の整理の手続が始まったことを認めることができるが、右手続が開始されても、配当を受ける可能性があるのであるから、右手続が終了して無配当であることが確定しない限り、貸付金の全額が回収できないことが明らかになったとはいえないところ、右手続が本件係争年中に終了したことについては、これを認めるに足りる証拠がない。さらに、石田浩一郎個人から連帯債務者及び連帯保証人として水谷弘に対する貸付金を回収する見込みがないことが本件係争年中に客観的に確実になったと認めるに足りる的確な証拠はない。したがって、水谷弘及び株式会社石田に対する右各債権を本件係争年の貸倒債権と認めることはできない。
(7) 張本万蔵に対する債権金五七二万円、菱田昭雄に対する債権金五万五〇〇〇円、遠藤登に対する債権金一五万円(資料7の番号39)、小野久男に対する債権金一〇万円(資料7の番号47)、浜島久に対する債権金五万円、祖父江一夫に対する債権金四万円、岩田良三に対する債権金五四万円、松田幸吉に対する債権金五〇万円、真野俊枝に対する債権金二八〇万円、石原辰夫に対する債権金一〇万円、株式会社江崎鉄工に対する債権金一二二三万円、大石忠臣に対する債権金三三〇万円、安井義夫に対する債権金一〇〇万円及び児山弘に対する債権金一五万円について
<証拠>によれば、原告は、標記債務者に対し弁済期を昭和四五年中又は同四六年中の日と定めて標記金額を貸し付けたが、右債権の回収ができなかったことを認めることができる。しかし、本件係争年中に右貸付金回収の見込みがないことが客観的に確実になったという事実については、<証拠>中に、それぞれ、債務者は倒産した、夜逃げした、居所がわからなくなった、回収不能であったなど、原告の主張に符合するような供述が存在するものの、<証拠>によれば、原告は本件係争年の確定申告及び本件更正後の不服申立て手続においては標記債権を貸倒債権である旨の具体的な主張をしていなかったことが認められ、また、右各供述はその内容自体からも必ずしも明確な記憶又は資料に基づくものではないことが窺われ、かつ、右各供述を裏付ける的確な証拠はない上、そのような具体的事実が生じた時期が本件係争年中であることについては、必ずしも的確な供述があるとはいえない。また、<証拠>中には、標記債権のうち保証人のあるものについて、当該保証人が無資力であった等の供述はあっても、本件係争年中に当該保証人からの債権回収の見込みまでないことが客観的に確実になったという事実を認めるに足りる的確な証拠はなく、結局、本件係争年中に右貸付金回収の見込みがないことが客観的に確実になったという事実を認めるに足りる証拠はないというべきである。したがって、右各債務者に対する標記金額の債権を本件係争年の貸倒債権と認めることはできない。
(8) 棚橋和夫に対する債権金三〇万円、柘植繁一に対する債権金一一万円、阿部誠に対する債権金六万円、遠藤登に対する債権金一五万円(資料7の番号28)、小野久男に対する債権金二〇万円(資料7の番号29及び30)、神野良一に対する債権金一二万円、加古孝彦に対する債権金一二万円及び杉本哉に対する債権金六六万円について
<証拠>によれば、原告は、標記債務者に対し、標記金額を手形貸付したこと、右各手形が昭和四五年中に不渡りとなったことを認めることができるが、本件係争年中に右各貸付金回収の見込みがないことが客観的に確実になったという事実については、原告本人尋問の結果中に、当該債務者が倒産した、逃げてしまった、回収不能であったなど、原告主張に沿うような供述が存するものの、他方、弁論の全趣旨によれば、これらの供述はその内容自体からも必ずしも明確な記憶又は資料に基づくものではないことがうかがわれ、かつ、右各供述を裏付ける的確な証拠はない上、そのような具体的事実が生じた時期が本件係争年中であることについては、必ずしも的確な供述があるとはいえない。また、<証拠>によれば、原告は、昭和四八年三月ころ、標記債務者(柘植繁一を除く。)の手形上の住所に宛てて内容証明郵便を発して債務免除の意思表示を行っていることが認められること、また、<証拠>によれば、原告は本件係争年の確定申告及び本件更正後の不服申立て手続においては貸倒債権の存在及び内容について具体的な主張をしていなかったことが認められることに照らし、右供述のみにより本件係争年中に右貸付金回収の見込みがないことが客観的に確実になったという事実を認めることはできない。また、原告本人尋問の結果中には、その他の手形債務者のあるものについて、当該手形債務者も支払能力がない等の供述があるが、本件係争年中に当該手形債務者からの債権回収の見込みがないことまで客観的に確実になったという事実を認めるに足りる的確な証拠はない。したがって、結局、本件係争年中に右貸付金回収の見込みがないことが客観的に確実になったという事実を認めることはできず、標記債務者に対する標記金額の債権を本件係争年の貸倒債権と認めることはできない。
(9) 白石達夫に対する債権金八九万円及び吉田漢二に対する債権金五〇万円について
<証拠>によれば、原告は、白石達夫に対し、金八九万円を手形貸付したこと、右手形が昭和四五年一〇月二六日に不渡りとなったこと、振出人が倒産したことを認めることができるが、白石達夫本人及び右手形の裏書人である吉田漢二から本件係争年中に右貸付金回収の見込みがないことが客観的に確実になったという事実については、<証拠>中に、白石達夫及び吉田漢二は右手形を持ち込んだ手形ブローカーであってもとより支払能力はない旨の供述が存するだけであって、右事実を認めるに足りる的確な証拠はない(かえって、吉田漢二に対しては、原告は右不渡りの日の後に、振出日が昭和四六年九月三〇日、支払期日が同年一一月三〇日という約束手形によって金五〇万円の手形貸付をしていることが認められる。なお、右手形は支払期日に不渡りとなっていることが認められるが、右手形の手形債務者から右貸付金を回収する見込みがないことが客観的に確実になったということはできない。)。したがって、結局、本件係争年中に右貸付金回収の見込みがないことが客観的に確実になったということはできず、右各貸付金債権を本件係争年の貸倒債権と認めることはできない。
(10) 有限会社名古屋エスピー商会に対する債権金八〇五万円について
<証拠>によれば、原告は、有限会社名古屋エスピー商会に対し、昭和四五年一〇月七日、金八〇五万円を弁済期を同四六年三月二八日と定めて貸し付けた(ただし、同社が有限会社万場商会という商号で設立登記を経由したのは昭和四五年一二月三日である。)こと、右貸付金の回収が全くされなかったこと、同社は倒産し、代表者の平塚二朗は夜逃げして行方不明となったこと、平塚二朗が所有していた同社本店所在地の建物について、昭和四六年九月二二日に任意競売の申立てがされ、同建物は同四八年一月三一日に第三者に競落されたことが認められる。しかし、本件係争年中に右貸付金回収の見込みがないことが客観的に確実になったという事実については、同社が本件係争年中に倒産したことを認めるに足りる的確な証拠はなく、かえって<証拠>によれば、同社については、昭和四六年九月二一日付で新役員の就任登記がされていることが認められ、また、<証拠>によれば、原告は本件係争年の確定申告及び本件更正後の不服申立て手続においては前記債権が貸倒債権である旨の具体的な主張をしていなかったことが認められ、これらの事実に照らしてみると、右任意競売申立ての日に同社が倒産したと認定することまではできず、そのほかに本件係争年中に右貸付金回収の見込みがないことが客観的に確実になったという事実を認めるに足りる証拠はない。したがって、右債務者に対する標記金額の債権を本件係争年の貸倒債権と認めることはできない。
(11) 森眞治に対する債権金三〇万円について
<証拠>によれば、原告は、森眞治に対し、金三〇万円を手形貸付したこと、右手形が昭和四六年二月一〇日に不渡りとなったことを認めることができるが、右約束手形の振出人林商店こと林外夫、同裏書人の高橋克己及び森眞治から本件係争年中に右貸付金回収の見込みがないことが客観的に確実になったという事実については、<証拠>中に、高橋克己は支払能力はなく、森眞治はヤクザなので問題にならない旨の供述が存するだけであって、右事実を認めるに足りる的確な証拠はないというべきである。したがって、右貸付金債権を本件係争年の貸倒債権と認めることはできない。
(四) 以上のとおりであるから、原告主張の貸倒損失の存在を認めることはできない。
3 借入利息について
(一) 大月進からの借入れについて
(1) <証拠>によれば、次の事実を認めることができる。
イ 大月は、昭和三九年五月ころ、大韓民国在日大使館三等書記官として来日した者であるが、同人の妻と原告の兄である加藤正男の妻が姻戚関係にあったことから、来日後間もなく、原告と知り合った。
ロ 大月は、当時、前記大使館において会計課長の職にあり、五、六億円から多いときには一〇億円を超える金額の在日韓国民団関係の寄付金(この寄付金は、大韓民国内で当時反対が多かった日韓会談の交渉に来日する者の交通費、宿泊費等に充てられるために集められたものであった。)の出納取扱いを担当しており、右金員を協和銀行麻布支店の同人の預金口座に保管する一方、その有効な運用を図るという観点から申込みに応じて貸出しを行い、個人相手には最高で一〇〇〇万円から二〇〇〇万円程度、多いときで総額二億円程度の貸出しを行っていた。
同人は、昭和四二年七月に辞表を提出して退官し、加藤正男の経営する加藤化学株式会社に役員として入社したが、その後も、嘱託されて昭和四三年ないし同四四年ころまで右寄付金の運用ないし貸付金の回収等の事務に携わっていた。
ハ 大月は、原告から金融業のための資金の融資を求める申入れを受け、昭和四二年九月ころ、加藤化学株式会社の経営に係る名古屋市千種区都通り一丁目六番地所在の富士ボーリングセンター内において、前記寄付金及び大月自身の資産の中から一〇〇〇万円の金員を引き出し、原告に対し、現金で貸し渡した。
右貸付に際し、借用書が作成されたが、弁済期、利息等の具体的定めは記載されず、利息については、原告が銀行に支払う程度の金利という約束であったが、原告が大月に対し毎月二〇万円(月二分)を現金で持参して支払うということが、原告が金融業をやめるということで右貸付元本を返済した昭和四七年一二月ないし同四八年一月ころまで続いた。
ところで、<証拠>中には原告への貸付の時期を昭和四三年九月ころとする供述があり、原告本人自身当初は同様の供述をしていたものであるし、前掲各証拠によっても、大使館の管理下にある寄付金から引き出してきたという資金について、同証人と大使館側との間でどのように清算がされたのかということや弁済期の定めなど事実関係が必ずしも明らかではなく不自然な点があるけれども、大月から原告への金一〇〇〇万円の貸付と毎月二〇万円の利息の支払、借用書が作成されたこと等の事実については、証人大月及び原告本人の各供述は一貫しており、<証拠>の借用証書についても、あえて従前の供述内容と作成日の異なるものを後日作成するとは考えにくく、その日付を信用すべきものと考えられることなどに照らすと、右の点は前記認定を覆すに足りるものではなく、そのほかに右認定を覆すに足りる証拠はない。
(2) したがって、原告が大月に対して本件係争年中に支払った利息各年当たり金二四〇万円は必要経費として計上されるべきものであるということができる。
(二) 松岡政勝からの借入れについて
(1) <証拠>によれば、次の事実を認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
イ 松岡は、昭和四三、四年当時、医薬品の販売等を業とするマツオカ薬品株式会社を経営していたが、当時、同社は資本金二五〇〇万円、従業員約五〇〇人、売上げはグループ会社全体で年商八〇億円で、医薬品の小売業者としては全国でもトップクラスの会社であった。
同社は当時経理上は赤字であったが、グループの会社ともども同族会社であることもあって、松岡又はその家族が日々の売上金約二〇〇〇万円の中から相当金額を会社の帳簿を通さずに個人的に流用することがしばしば行われていた。
ロ 松岡及び原告は、在日韓国人の二世で経済界で活躍している者二〇数名の集まりである清友会の会員であり、互いに親しい関係にあり、松岡が原告に二、三〇〇万円の事業資金を短期で貸し付けるということが何度かあった。
ハ 松岡は、昭和四四年正月ころ、原告から、相応の利息は支払うので金三〇〇〇万円を金融業の事業資金として二、三年長期で貸してほしい旨の申入れを受け、同年二月ころ、前記イのような会社の売上金を流用した裏金の中から現金三〇〇〇万円を原告に貸し渡した。
右貸付の際、弁済期及び利率については具体的な定めをしなかったが、原告は松岡の事務所に同月から毎月金五四万円(月八分)の利息を現金で持参して支払い、右支払は、原告が金融業をやめるということで元本を一括返済した昭和四八年一月ころまで続き、松岡は、右支払に係る利息を小遣い銭として使用していた。
(2) したがって、原告が松岡に対して本件係争年中に支払った利息各年当たり金六四八万円は必要経費として計上されるべきものであるということができる。
四所得金額について
以上認定の収入金額及び経費の額と当事者間に争いのない収入金額及び経費の額に基づいて本件係争年の原告の総所得金額を計算すると、別紙資料10のとおりであり、本件処分は、右各総所得金額を超える部分につき、いずれも原告の所得を過大に認定した違法があるというべきである。
五結論
よって、原告の本訴請求は、本件処分のうち別紙資料10記載の各総所得金額を超える部分の取消しを求める部分に限り、正当として認容し、その余の部分を失当として棄却し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九二条本文を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官浦野雄幸 裁判官杉原則彦 裁判官岩倉広修)
別紙<省略>